第1章 勧誘
訳が分からずにとにかく否定しようと声を出そうとすると、翔陽はそれを分かっていたかのように勢いよく手で私の口を塞いできた。
「いやぁでもその、こいつ人見知りで今はやっぱりこんな大勢いる中だと緊張して喋れないみたいなんで、今日の所は試合見てもらうだけでいいですかね!」
はぁ!?何を言ってるんだこいつは。
そう心の底から思って私は必死に翔陽の手をほどこうとした。
しかしそれも意味なく、ある人が私の目の前に立って笑いかけて来た。
「そうか、そうだな。なら今日の試合を是非見ていってくれよな。マネージャーは助かるべ」
「あぁえっと、この人が主将の澤村さん!!な!澤村さん!!」
その人が喋り終わってすぐに翔陽はわざと2回も繰り返して彼の名前を口にした。
私だって翔陽から話しを聞いていたから分かる、怒ると怖いあの翔陽を体育館から追い出した張本人だ。
翔陽、後で覚えておいてもらおう。
そう彼のことを睨み付けて私は大人しくすることにした。
「いやぁそれにしてもこーんな可愛い子だったとは日向やるなぁ!」
「気遣いもできる優しい奴なんですよ、マネージャーも最初は嫌がってましたけどやってくれるって!」
「な、なんと女神ー!」
『……………』
なんて盛り上がる翔陽と田中さんを見て溜め息をつく私。
上手く騙されたもんだ。
そう項垂れながら私が顔をあげた時、目の前になんとあの影山がいた。
『あ………』
「…………」
なんか、凄い見られてる。
顔に穴が開きそうな程見られてる。
そう目を反らそうとした時、影山がそっと顔を近づけてきてこっそりと呟いた。
「…日向から話しは聞いた、悪いな」
『え………?』
それだけ言うと、影山は何もなかったかのように私の側から姿を消した。
もう試合の準備を始める翔陽や影山や田中さん。
私の隣には菅原さんが優しい笑顔で立ってくれていて、何故か安心できた。
菅原さんは試合に出ないらしい。
そしてそんな中私は、試合に出る人達を順番に端から眺めていった。