第1章 勧誘
ボールと体育館を走る音を聞きながらそっと中を覗く。
見ると、翔陽とこの間の影山がいた。
後は知らない人達だけど、翔陽から話を聞いていたから名前だけは分かる。
この、体育館の匂い。
転がるボール達。
汗をかきながら必死にボールを叩く姿。
私にはない、生き生きとした笑顔。
『…………』
やっぱり来ない方が良かったかもしれない。
そう思って体育館の外でしゃがみこんだ。
一応、試合を見るからと烏野の資料を集めて少しでもバレーを知ろうとはした。
だけど、なんか本物を見てしまうと私なんかがいていい場所とは到底思わなかったのだ。
『…皆必死なのよ。そんな所に変に女が来たら折角の集中を切らさせてしまいそうね…』
そう思い、私は立ち上がりそっと体育館を離れ
「ん?誰?」
『。』
ようとした。
が
その前になんと誰かに見つかってしまった。
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今、私は体育館から出てきた1人の人と向き合っている。
灰色の髪に優しそうな笑顔。
そして、彼の質問に硬直する私。
見つかってしまっては終わりだと思った。
とにかく冷静さを保つ。
それから、私はゆっくりと口を開いた。
『私は…です。実は翔陽に呼ばれて応援に来たんですけど………』
段々と声が小さくなる中必死に答えると、彼は私に笑いかけて手を差し出してきたのだ。
まだ暗くないこの時間。
彼の笑顔はどこか安心できた。
「そうだったのか。俺は菅原孝支、3年だよ。応援なんて嬉しいなぁ、体育館入っていいべ!」
『えっ、ん!?』
半ば強引な彼の言葉に驚く暇もなく私は彼に腕を引かれてどんどん体育館へと近づいていた。
待った待った待った、今の今帰ろうって決めたのに待った待った待った。
なんて思っていても無駄、とうとう私はざわつきを止める程勢いよく開いた扉の中へと入ってしまったのだ。
シーン
この反応は、予想していましたとも。