第1章 勧誘
そして、そんなある日。
私が先生に雑用を任されて遅い時間に帰ろうとしていた時だった。
「もう1本!!!!」
そんな大声が暗い向こうから聞こえてきて、私は本当に自然とその声の方へと向かっていたのだ。
こんな暗いのに、まだ部活をやっている人がいるのか。
野球部とか、かな。
そう思いながらも滅多に来ないグラウンドへ足を運ぶと、向こう側の、端の方に2つの影が見えた。
恐らく、さっきの声の主だ。
そう思って興味本意でその影へと近づいた。
その時。
『ぶぎゃっ!!?』
いきなりその影の方向からボールが山なりに飛んできて私の頭を叩いた。
そこまで痛くなかったから、野球ボールとかではなかったらしい。
落ちたボールを見てハッとする。
これはバレーボールではないか。
ということはもしかしてそこにいるのは……
そう予想した時、暗闇からこちらに走ってくる影が見えた。
「ご、ごめんなさーい!!俺がミスったからボールがっ」
「そうだボゲっ!てめぇ下手くそすぎなんだよボゲッ!!!」
『………』
うん、片方はやっぱり翔陽であった。
そして、もう一つの影。
それもこちらへと向かってきて私は思わず身構えた。
もしかして彼こそ…あの翔陽が言っていた……鬼か。
何だか今の会話を聞いてきたら物凄くそんな気がしてきた。
風があまり吹かない今日この日。グラウンド独特の匂いが漂う中、私は目を光らせていた。
もう野球部などはいなかった。
つまり、この2人はずっと練習していたということだ。
バレーが好きじゃなかったらこんな必死にはなれないと思う。
そして、目の前にオレンジの髪が揺れた。
「って、じゃん!」
『…翔陽、まさかこんな時間までバレーやってたの?』
「おう!」
私を見た瞬間いつものあの笑顔になった翔陽。それを見て少し安心した。
そして、落ちたボールを拾い翔陽に渡す。
「悪い、痛くなかった?」
『大丈夫よ、大したことないわ』
過保護なのか元気なのか優しいのか分からない彼に大丈夫と言う。
少しの沈黙と無風の音。
そして、私が口を開いた時…まさかのまさかであの"鬼"の影山と声が被ってしまったのだ。