第1章 勧誘
そして何故か、バレーボールを持って私に向けてくる影山。
まさか、と嫌な予感がして一応私は影山に聞いてみた。
『…ねぇ、そのバレーボールって私に当てるから持ってるの?』
本当に一応、聞いてみた。
すると、間髪入れずに影山はその質問に答えたのだ。
「それ以外に何があんだよ」
『。』
そして私は、影山のやることを理解して1歩2歩下がってからダッシュした。
体育館の走る音がやけに大きく響き、周りの部員達がおどおどする。
多分、影山は翔陽の言った通り怒らせたら駄目な人なんだろう。
なんて、走りながら思った。
その時──
「でもさ、ほんと王様はすぐ怒るよね。流石自己中王様」
彼のこの言葉に、影山の動きがぴたっと止まった。
そして、何故だか凍りついたような空気になる。
さっきまで走る音が響いていたのに、今のほたるの言葉で沈黙になった。
それに、私もその"王様"という単語を聞いて立ち止まってしまった。
だって、"彼"も同じ事を言っていたから。
"最近王様がますます自分勝手でほんと困るし、こっちだってやる気なくなるんだよね"
『………』
そんな"彼"の言葉を思い出して私は影山を見つめる。
影山はそのままの状態でほたるを見ていた。
だけど、睨んでるとかそういう雰囲気はないのだ。
「お、おい知らねぇぞ…」
そんな重たい空気の中わたわたと焦る翔陽を見て私はほたるを見た。
そして、明らかにからかうのを楽しむほたるに私は口を開いた。
『それは影山が王様ってこと?どうして?やっぱり強いから?』
「お、おいそれは…」
私の質問に更に焦る翔陽と、嫌な笑みを見せて笑うほたるを私は黙って見ていた。
きっと、影山からして嫌な意味の王様なんだろうとすぐに悟った。
きっと、"彼"があの時言っていた自己中王様っていうのが、影山のことなんだ。
「王様って言うのは、こいつの元同じ中学の奴らがつけたらしいよ。何も、自己中心的な王様なんだって。皆を置き去りにするトス」
そして、静かな中ほたるはこう言って鼻笑いした。
そんな彼の言葉に私は影山を少しだけ見た。
下を向いて思い出したように手を握る影山。
私はそんな彼のことを見て、そっと口を開いた。