第8章 再びの月曜日
綾雁が二人に気付くのは早かった。水桶を手にガラス戸の向こうで、息を呑む気配がする。
今日も鼻の下に墨がついている。
全蔵は声を立てて笑った。
「ホントおもしれぇお姫さんだ」
腰の洞爺湖を抜いて積み上げられたジャンプを数冊、縄の隙間を突いて掬い上げる。
綾雁が水桶を投げ捨てて駆け出すのが目の端に映った。
「お前ならどう解く?河合!」
振り抜いた洞爺湖からジャンプが放たれて空を舞う。
河合がスッと懐に両の手を収め、小振りで細い目打ちといやに光る針金のようなモノを取り出した。
縄の結び目へ巧みに目打ちを潜らせ、下に落しかけながら針金を突っ込んで上にグンと引く。
「・・・・あッ」
縄が解けて綾雁が立ち竦む。
全蔵がまた笑った。
「はは、流石捕縛の河合だな。緊縛阿形解縛吽形健在じゃねえか」
河合は両手を交差させて残るジャンプも空を切って掻き寄せ、流れるような速い手で全て縄目を解ききった。
解放されたジャンプが解けた縄と縺れ合いながら頁をはためかせて空を舞う。
ジャンプが地に着く、と、見えた刹那、手が伸びて日本一愛されている少年週刊雑誌を次々に受け止めた。
「人が悪ィな、縛り屋。こんな簡単に解けんなら、ヤンジャン焦がすこたなかったじゃねえかよ」
「え?あなた、何故?」
呆気に取られる河合の前で、銀時がにんまり笑った。
「絶好の立ち読み日和じゃねえか。勿体なくって入院なんかしてられっかよ?」
「あーあー全くだ。すっかり体ァなまっちまったよ」
その傍らを土方が行き過ぎた。
ブツブツ言いながら、唖然と騒ぎを眺める店長に片手を上げて話し掛ける。
「たく、たかだか立ち読みに何でこんな大騒ぎしなきゃねんだかよ・・・おう、店長。マガジン残ってるか?残ってる!?よし!!!ヒゲ子デカした!これでチャラだ!おい、河合。早ぇとこマガジンの縄ァ解け。ついでに他の雑誌もな」
「河合河合、スピリッツも頼む。させよ!エロイカ!Zメン頑張れェェ!」
「いや、スピリッツなら団地ともお。彼はなかなか見どころがある。将来が楽しみだ」
縄で括られたジャンプをドンと河合に手渡したのは、内臓破裂的な症状を呈しているはずの桂。
「だがまずはお客様が先だ。さ、河合殿、サクサクと解くがよい。銀時の言う通り、今日は全くの立ち読み日和」