第8章 再びの月曜日
「・・・・・おいおい」
頬に手を当てて苦笑する全蔵に、綾雁は笑み含んではいるが真剣な目を向けて言った。
「ありがとうございます、服部様。独りで悩みいる苦しみに灯りを点して下したのはあなたです。あなたやあなたの親しい方々を傷付けた私を、何食わぬ様で訪って下さった事、私、きっと忘れませぬ」
それから銀時たちを振り向いて、綾雁は楽しそうな顔をした。
「ええ、皆さんの事、きっときっと忘れません」
「なら立ち読みは解禁でチャラだ。それでいいや。この騒動の事なんざ、さっさと忘れちまえよ。さっきの事も、なかった事だ」
首の後ろを掻きながら言う全蔵に、綾雁はにっこりした。
「いいえ。矢張り立ち読みはお断りにございます」
「矢っ張り立ち読みお断りか。ま、いいさ。じゃ、座るわ。なあ?」
「座るな。と、言われてもう座っている。何せ内臓破裂的な何かしららしいからな。自重せんといかん」
表レジについた椅子に腰かけた桂が頷き、その頭を傍らで先週のマガジンを読んでいた土方がはたく。
「いい気になってんじゃねえぞ。退院次第逮捕だ、テメエは」
「安心してお縄につきな。毎週ゴールデンカムイんとこ引き千切ったヤンジャン持って面会に行ってやらあ」
平台の空きに行儀悪く腰かけてジャンプを読んでいた沖田が真顔で言う。忙しくレジを打っていた長谷川が堪り兼ねた声を上げた。
「ちょっとアンタら邪魔。お客さんの邪魔ンなってるよ!どいてどいて!てか働きなさいよ、アンタらも!何で俺だけ頑張ってンの?何でこんな頑張り屋なのに俺ってマダオなの?ねえ、店長?」
「長谷川さん、店長を困らせるモンじゃねえ。アンタのPHPはちゃんととってあっからよ!」
スピリッツ片手にヤンキー座りした近藤に長谷川が首を振る。
「止めろよ!俺にもフツーに漫画読ませろよ!」
近藤と同じ格好で磯部磯右衛門を読みながらニヤついていた銀時が顔を上げた。
「座り読みOK?ふぅん。じゃ、また来るわ。ま、駄目ったって立ち読みもしちゃうけどね、俺は」
「また蹴り飛ばされるぞ」
全蔵の言葉に河合を抱き起こした綾雁が朗らかに笑った。鼻の下のかすけた髭が眩しい。
「さあ、どういたしましょう。けれど今度は不粋な括りは致しませんこと、お約束します。またのお越しをお待ちいたしておりますわ、皆様」