第8章 再びの月曜日
かくて決戦の月曜日。
朝早く全蔵の家を訪った河合は、寝惚け顔で寝癖だらけの全蔵に迎えられて苦笑した。
「服部殿は何があっても何もなくとも、そのまんまだ。死地のあなたを知らぬ者からすれば、摩利支天の通り名が宙ぶらりんに見えかねないでしょうね。フフ・・・」
「朝から男の含み笑いなんざ聞きたかねえよ。気持ち悪ィ」
朝から熱い河合の視線を掌を立てて遮り、全蔵は傘立てに差した洞爺湖をスイと取り上げた。腰帯の後ろへ斜めに収め、上からポンと叩いて落ち着ける。
「ん、じゃ、行くか」
「行きましょう」
答える河合はノンビリした様子で、薄藍の着流しが通人のようにはまって映えている。 涼やかな顔立ちに穏やかな表情を浮かべた河合は、縄師というより大店の若旦那の風情だ。
「お前さあ・・・」
「はい」
「あの解けない結び方を綾雁さんに教えたの、お前だろ?」
「・・・ああ・・・」
スルリと懐に手を潜らせ、河合は微笑した。
「教えると言う程のものではありません。あれは結び切りというごく一般的な結び方です。ただ、一度結ぶと二度と解けない」
「ヤだねえ・・・いつの間にそんなんが一般的になったんだよ?」
「婚儀や葬儀の時にまず漏れなく見かけるはずですよ」
「あー・・・成る程な。一般的かも知んねえが、あんま関わりねえからな、特に婚儀の方なんかな・・・」
「寂しいですねえ・・・」
「・・・そうか?うーん、ま、ならお前がひとつ景気いい話をブチ上げてくれよ」
利き手を背に回して洞爺湖の所在を改め、全蔵は顎を上げた。
口元に笑み。
摩利支天の笑い。
それを見止めた河合がスウッと目をすがめた。穏やか一方だった容色が険しい色を帯びる。
書店が見えてきた。立ち読みの姿はない。
ただ店先に立ち読みお断りの張り紙と、読めないジャンプの山。
全蔵は苦笑してコキッと首を鳴らした。
「海賊王に俺はなるってばよ!さあ、ルフィに会いに行くぜ」
「殺先生、最後までよろしくお願いいたします!」
二人の足が、固いアスファルトを蹴って大きく飛び出した。