第1章 月曜日
凄い大声にぎょっとして振り返った二人は、声の主を見て、張り紙を見て、また声の主に目を戻した。
「・・・・・あれ?もしかして、これ書いた人?」
「間違いないな」
「凄ぇ間違いなさだよ」
「テメェ適当言いやがったな。若えじゃねえかよ」
「いやいやいや、こう見えて八十九十いっちゃってっかも知んないよ?何せ書道界ってなジバニャンもビックリの化けモンの巣窟だからね?右に左に鬼時間だからね?」
「書道界に何か恨みでもあんのか?」
「あ"あ?字が下手だからって妬んでなんかないですよ!?銀さんそんなちっさい男じゃないからね?もう歩くのも辛いくらいでっかい男だからね!?」
「何のデカさの話だよ。見栄張るな」
「・・・お客様。臭い煩い下品の三拍子で他のお客様のとてつもない迷惑になります。ここではないどこかへご移動願えますか?」
鼻の下に黒々と墨汁をつけた年の頃十八九の弱竹の如き儚げな色白美人が、両の手を前で束ねて丁寧に頭を下げた。
二人に尻を向けて。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
銀時は全蔵の肩に肘をかけたまま、全蔵は銀時に肩を貸したまま、無言で美人の尻を眺めた。
「・・・何コレ?どういうネタ?」
「・・・猿飛系か?美人なのに残念系か。流行ってンのか、今そういうの」
墨の髭も鮮やかな美人は二人を見返ってゆっくり頭を振った。
「お二方は何のお買い上げもございませんので厳密にはお客様ではありません。そのくせ店に迷惑をおかけ下さいまして、店長命令で参りましたが本当言えばそんな連中に頭を下げるなど真っ平御免。そんなささやかな意思表示でございます」
「・・・ささやかか?コレ?」
「・・・・・面白え」
「面白えってケツが?」
「バカ、顔だよ。面白え。髭がそそる」
「髭?そこ?・・・おま・・・悪食も大概にしろよ?腹壊すぞ、変態忍者」
「何だよ、いいじゃねえか。なかなかいねえぞ、髭の美人なんてよ」
「お客様」
「駄目だって。この顔に髭はねぇだろ?この髭に美人はねぇよ。変態忍者が許したって世間が許さねえ。因みに銀さんも許しません。断固として許しません。全く、ネジの飛んでねェ美人はどこにいんだよ。周りじゅう変な美人ばっかじゃねえか。ただの美人は絶滅危惧種か何かになっちゃったか?西表山猫や朱鷺と肩並べちゃってんの?ひでえ世の中だな、おい」