第2章 火曜日
「アヤカリよりヒゲコのがイケてるよ。で、そのお姫さんと河合に何の関係があンのよ?大体河合のヤツは今アンタのテリトリーにいる筈だろ?捕縛の腕を買われて警察にスカウトされてトラバーユしたんだからよ、アイツ」
全蔵の言葉に近藤は首を振った。
「アイツァ首ンなったんだよ。天人のお偉いさんを怒らせちまってよ」
「・・・・そら初耳だ。フン?天人を怒らせた?品行方正で諸事万端な河合らしくもねえ。何やらかした?」
「下らん事だよ」
近藤はやりきれない顔でフッと笑った。
「・・・・立ち読みを」
「何だ何だ、また立ち読み?」
「ああ・・・立ち読みしてて注意された天人が本屋の親父をぶちのめしちまって」
「はあ」
「ソイツを見咎めた河合とやりあいになったんだよ。まあ知っての通り、アイツァ強ェ。バカな天人をたたっ伏せて見事な乳掛縄決めてそれきり・・・」
「女に掛ける縄じゃねえかよ。あのバカ、柄にもなく愉快な真似しやがったなぁ・・・」
「恥ィかかされた天人は怒髪天でよ。首ンされちまった。まあ、当の本人はとっくに消えちまってた訳だがな」
「そりゃ気の毒なこったけどよ?だからそれとヒゲ子に何の関係があるのよ?お姫さまが何だって捕縛師に関わる?縛られたいヒトな訳?ヒゲ子は。あんだけやんちゃしといて括られたいタイプなのか?」
「そう言えなくもないな。何せ綾雁さんは河合の為に家出して来たんだから」
「ふーん・・・河合はモテるからな。しかしお公家さんのお姫さんとねえ・・・」
「河合が天人とやり合ったのが、綾雁さんが二三日前からバイトに入った本屋だ。一件以来体の調子のよくねえ店長をフォローして頑張ってンだよ」
「・・・そういう事情知ってて何でわざわざそこで立ち読みしちゃったの、アンタ・・・・」
「そこにスピリッツがあったから」
真顔で告げた近藤の頭を土方がスパーンと院用スリッパで叩いた。