第6章 小学校中学年編
逃走を失敗した私と、にこやかに会話を続ける母さん。
名前を当てたれた事がよほど嬉しかったのか、いつもより笑みが深い。
「流石赤司さんのところのご子息ね。白藤智則(とものり)の妻、桜子(さくらこ)よ。お父様からお話は聞いているわ」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそご夫婦のご活躍は聞き及んでおります」
子供らしくない物言いに、今の状況を忘れて感心してしまった。
見た限り小学生であることは間違いなさそうだが、言葉使いは大人顔負けだ。
じっと見つめていると、視線に気づいたようにこちらへ目を向けられた。
「君は、白藤さんのご息女だね? 俺は赤司征十郎。君は?」
突然向けられた視線に、思わず肩が跳ねる。
曇りのない、透明な瞳が、私の全てを見透かしているようで、暴かれたくない場所まで見られてしまいそうで、後ずさる。
人見知りではなかったはずなのに、彼が、怖い。
そんな私の様子に、母さんが首を傾げたのが見えた。
「乃亜ちゃん? どうしたの?」
肩を軽く叩かれて、我に返る。
まさか初対面の相手が持つ雰囲気に飲まれてた、なんて私のプライドが許さない。
気を抜くと逃げ出しそうになる身体を奮い立たせて、彼の正面へ立った。
「はじめまして、白藤乃亜です。 よろしくお願いします」
はんっ、猫かぶってやったぜ!
私の反応を見て、彼は面白そうに笑った。……心なしか瞳が輝いているように見えたのは、気のせいだよな。気のせいだと言ってくれ!
「乃亜か……ああ、呼び捨てでも構わないか? 見たところ年もあまり変わらなそうだからな」
「……年下に呼び捨てされるのは、ちょっと」
かなり幼い顔立ちと、小さめの身長に年下だと判断した。
これで同い年とか年上だったとしても構わない。私なりの抵抗みたいなものだ。
「確か乃亜ちゃんと同い年だったはずよ?」
……母さん、余計なことを!
母さんの言葉に、彼は笑ってこっちを見た。
え、ちょっと目が笑ってないぞ?
「同い年だったら、呼び捨てでも構わないよね?」
「はい……」
負けた……