第5章 猛獣の目覚め
三年、新学期。
いろいろあったが、私はすくすく(?)成長している。
身長はあまり変わらないんだがな……成長期はまだ先か……
外は沈みゆく夕日で赤く染まっている。
コートも、バスケットゴールも、全てが真っ赤に染まっている。
その様はひどく美しく、それでいてどこか恐ろしい。
少し大きくなって、門限が遅くなったからまだ時間的には大丈夫なはずだ。
背負ったままだったランドセルを放り投げて、コートへ立ち寄る。
公園はとても静かで、当然のようにコートには人影がない。
「…………」
転がっていたボールを無言で摑み上げて、無造作に投げる。
余計な力が加わらなかったボールは、美しい軌道を描いて飛んで行く。それを追いかけゴール下まで走り、落下するボールを弾く。
流れるように行われた一連の動作。
体感としては、とてもうまく出来たと思う。
身体が、考える動きについて行けず固まることもなく。想像するままに、前世の動きに近い形で身体が動いたことに、達成感を覚えた。
ああ、これだ。この動きだ。
私がひたすら求め続けた、前世の動き。
ようやく、ここまで来ることができた……!
「ここまで来たのか……」
達成できたことによる高揚感からか、言葉が出てこない。
出てきたのはありきたりな言葉だけ。
まぶたを閉じ、顔を空へ向ける。
感覚が研ぎ澄まされていく。
風の音が、葉の擦れる音が、近くに感じる。
次の瞬間、キーンっと甲高い耳障りな音が頭のなかで鳴った。
なんだ……これ……!?
頭のなかをかき回されているよう。不快感と、痛みとが同時に襲ってくる。
気持ち悪い、痛い……!
「う……くぅ……っ!」
たまらずしゃがみこんで、地面に手をつけた。
しばらく耐えていると、それは徐々に収まっていった。
「なんだったんだ、あれは」
興奮状態になった時の身体の高揚とも違う、不快なもの。
考えてもしかたがないのだが、わからないのはもやもやする。
気分が落ち着くまで私はここにとどまることにした。おそらく事情を説明すれば怒られないだろうと考えながら。
〜〜〜〜〜〜〜
暗闇に支配されたコートの中。
闇さえも切り裂くようなギラギラした金色の、瞳。縦に開いた瞳孔。
あれは、間違いなく獰猛な獣の瞳。
深い深いキズを負った、手負いの獣の瞳。
森の王者は、人知れず目覚めていく
