第4章 小学校低学年編
微かに聞こえる話し声が、眠りを妨げた。
「……あのまま寝てしまったのか」
ぐうっと背伸びをして、ふと自分に掛かっているブランケットに気がついた。
「ママさんが掛けてくれたのか」
もぞもぞとブランケットの中で動く。
「乃亜ちゃん、朝ごはん出来てるわよ」
「んー」
ママさんが、お玉片手にキッチンからこちらを覗き込んだ。
「乃亜、珍しくお寝坊さんだね」
「パパさんこそ、珍しいな」
時計を見て、時間を確認する。針は7時半ぴったりを指している。
本来ならば、多忙なパパさんがこの時間にいるのはおかしいので首をかしげる。
「予定していた会議が延期になってね。今日はゆっくり出勤なんだよ」
「そうか……あ、おはよう」
「おはよう。少し遅かったね」
こんなゆったりとした朝を過ごしたのはいつぶりだろう。
大抵どちらかはいないし、いる方も朝ごはんだけ用意してすぐに出かけてしまうから。
テーブルには割と豪華な朝食が並んでいる。
新聞を読みながらコーヒーと飲むパパさんと、キッチンから覗くママさんの姿が非常に絵になっている。
「美味しそう……」
「ふふっ、でしょ? 張り切っちゃった」
語尾にハートでも付きそうだ。なのに全く違和感がないのが我が母ながら怖い。
「ほら、乃亜。おいで」
「?」
パパさんに手招きされて近ずく。
ひょい
「え?」
まるでそんな効果音が付くような感じで抱き上げられ、膝の上に乗せられた。
「〜〜っ!」
「暴れない暴れない」
あまりの恥ずかしさに手足をジタバタさせるも、大人の、それも男の力に勝てるはずがなく。
結局おとなしく膝の上に収まった。
「ママさん!」
「あらあら」
ママさんは助けに入るどころか微笑ましそうに見つめている。
この後私は、祥吾が迎えに来るまで、パパさんの膝に座る羽目になった。
……止めてくれ! 私は大人だーっ!