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七人目のキセキ 【黒子のバスケ】 ※修正後

第3章 幼稚園編



「どれもこれも、なにもつまらない」

母親は忙しく子供の相手などしていられない。
父親は見かけたことがない。
見せかけだけの遊びなんかもう飽き飽きだ、と笑った祥吾に、ふと自分の前世が重なる。

境遇も、何もかもが違うのに、何かに絶望した様な、諦めてしまった様な、少年。
それはとてもこんな歳の子供が持っていい感情ではない。

(そういえば、彼は母子家庭だったな)

小さな子供を育てるために、母親は一生懸命働いているのだろう。
それをわかっているからこそ彼は、こうして一人抱え込んでしまったのか。

「面白いものを、探せばいいんだ」

面白いものや、刺激を求めるのは人間として当然の欲求だ。
もし、彼があの灰崎祥吾であるのなら、きっと興味を持ってくれるはず。

(今の私にできるのは、これぐらいしかないが)

手を差し伸べようなんて、大それたことは思わない。
願わくば、この少年が心から楽しいと笑える様に。

「バスケ。やるか?」

そう言って、私が指差したのは誰かが放置したのか転がっていた、手頃なボール。
やや小さめ、といっても子供の手には随分と余る大きさのボールを持つ。

「なにを、するつもりだ」
「まあ、見とけって」

テレビ越しで見たことはあるだろうスポーツ。
だけどこれは、実際に見て肌で感じた方が引き込まれる。楽しさを知ることができる。

(この感覚、久しぶりだな……)

タムタムと、軽い音を一定のリズムで刻むドリブル。
私は、結局のところバスケから離れられない運命なのかもしれない。

全身に集中して、馴染んだあの構えを思い出す。
目線が捉えたのは、使うことを想定されていない、寂れた小さなバスケットゴール。

大人から見ればきっととても低いそれは、子供になった私から見れば、前世のゴール以上に高い壁に見えた。

ボールはぶれることなく綺麗な軌道を描き、そして、がこっとリングに当たった。

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