第9章 帝国の刺客
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「あれ、みんなはどこ?」
練習に入ろうと花織がボールの入った籠を押して辺りを見回す。どうしてか選手の姿が全くと言っていいほど見当たらない。花織は首を傾げる。その疑問に答えるように秋は微笑んだ。
「皆、理事長室だって」
「どうして?」
理事長室など益々不可解だ、よくわからない。花織は不思議そうに秋を見つめた。秋は変わらずドリンクの準備をしながら花織に返事を返した。
「円堂くんのお祖父さんの秘伝書があるんだって。だからみんなで潜入中」
秋はくすりと笑みを零す。約10人もの中学生男子が身を隠すでもなく、ただこそこそと理事長室へ向かっているのを先ほど目にした。あまりにも子供っぽい所作だったために何度思い出しても笑いが込み上げてくる。そしてその様子を秋の表情から連想したのか、花織も思わず口元を抑えた。
「へえ……でも、潜入なのに大勢でいっちゃうんだ……ふふ」
もしかして、風丸も同じように潜入とやらをしているのだろうか……花織はいつも落ち着いたふうな恋人の姿を思い浮かべる。あの彼がそんな子供じみたことをしているのだと思うと無性に愛おしさが込み上げた。
「あ、花織ちゃん。風丸くんのこと考えてるでしょ」
「え、何で……?」
「わかるよ。風丸くんのことを考えてる時の花織ちゃん、なんだか幸せそうだもん」
花織は思わず頬を抑える。秋の指摘に頬が火照った。秋の言うとおりだ、風丸のことを考えていると不思議と口元に笑みが浮かぶ。彼の喜ぶ顔が見られたら……彼の優しい微笑みが見られるなら、ここの所常にそう思っている。風丸のことを考えていれば鬼道への想いが若干ではあるが薄れつつあった。