第9章 帝国の刺客
「へえ、あの2人が」
「そう、いろいろあってやっと付き合い始めた2人だからそっとしておいてあげて」
土門は困惑の表情を浮かべながら秋の慈しむような眼差しの意を探った。話を聞く限り、普通の女子だが実際はどうなのだろう。ただ、秋に聞いてもきっとこれ以上を話してくれることはない。土門は諦め、微笑を秋に返した。
「分かったよ、秋」
とりあえず、本人に探りを入れるのが得策だろうか。
***
マネージャー業をこなしながらも花織は憂色を隠しきれないままだった。鬼道に囁かれたからと言って雷門にスパイがいることを黙っておく、というのはやはりマズい事なのではないだろうか。みすみす情報を明け渡しているということを知っていながら。それで良いとは思えないが、しかし……。花織はきゅっと唇をかみしめる。
鬼道さんの頼みだから。
「花織ちゃん」
唐突に名前を呼ばれ、はっと花織は我に帰れば、秋がニコニコとこちらを覗き込んでいた。花織は笑顔を取り繕いながら何、と問い返す。
「秋ちゃん、どうしたの?」
「ううん、みんな頑張ってるなあって」
花織は秋の言葉に頷いた。確かに、先ほどこの学校の事務員古株さんに伝説のイナズマイレブンなる話を聞いたことにより、みんなの気合は向上していた。
「そうだね……、私も混ざりたいくらい」
「ふふ、花織ちゃんは選手の方がいいって言ってたもんね」
「思ったよりサッカーって楽しそうだから。元々、帝国学園出身だから基本位はどうにかできるし……。この頃は一郎太くんに教えて貰ったり、一緒に練習もするの」
花織は少し嬉しそうに秋へと言う。花織はやはり体を動かすのが好きである。サッカー部のマネージャーになりたてのころは軽いランニングをしていただけだったのだが、今では風丸の自主練習に付き合うなどして自らの運動能力が落ちぬようにしている。自分の培ってきた努力を無下にすることだけはしたくなかったのだ。
花織の言葉にも嬉しそうに秋も言葉を返す。
「本当に?」
一瞬驚いたようでもあったが、すぐに秋は満面の笑みを浮かべた。少し前までサッカーを遠ざけていた花織が風丸と一緒に練習をしているというのだ。同じマネージャーとしても、友人としてもそれは嬉しいことであった。