第9章 帝国の刺客
土門飛鳥は新しい雷門ユニフォームに着替えると木陰で選手たちの練習を眺めている幼馴染を見つけた。帝国学園より派遣された密偵、それが彼の役目。だからこそ、知り合いだろうと使える人材ならば積極的に接触し、元の信頼関係を取り戻すことや新しい信頼関係を築くことも大切であろう。特に有益な情報を引き出すためにも。
「秋」
「あ、土門くん」
声を掛ければ、幼馴染はすぐに顔をあげた。ずっと変わっていない、アイツがいたあの頃かずっと。
「どう?似合うかな」
秋に向かって土門はポーズを決めてみる。黄色と青の雷門ユニフォーム、土門が着ていても違和感は無く、むしろ彼を引き立てて見せている。
「似合ってるよ」
しかし、土門に対して秋はあっけらかんと返事をした。これから会話を弾ませねばならない土門は秋のあまりにもあっさりした返答に少々拍子抜けした。
「あ、あのさ秋、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
気を取り直し、土門が明るい調子で言った。秋は練習中の選手たちから目を離さないまま、土門に尋ね返す。
「マネージャーの月島って子いるじゃん?あの子のこと教えてほしいんだ」
「え?」
秋は目を見開いて土門をまじまじと凝視する。土門は焦った、何かまずいことを聞いたのだろうか。月島という少女に何かあるのだろうか……とりあえず、何故か情報収集リストの内に彼女の名前があったのだ。リストにある以上、土門は月島花織について調べなければならない。
「どうして?」
「いや、可愛い子だったからさ」
あくまでも明るくちゃらちゃらしたキャラを心がけ、秋に問う。花織の顔が可愛かったかどうかは実際には覚えていないのだが、こう聞いておけば無難ではないだろうかと土門は思った。
「うん、確かに可愛いけど……花織ちゃんはダメだよ」
「え?なんで?」
「彼氏いるもん、ほら」
秋が指差した先には練習している選手の傍でバインダーを抱えている花織と風丸の姿があった。風丸がサッカーボールを操る術を花織にアドバイスをしている……そんな風に見て取れた。