第9章 帝国の刺客
花織がきつく冬海を睨みつけていると隣にいた豪炎寺が小声で落ち着け、と花織の肩を叩き、囁いた。
「……顔に出てた?」
「ああ、思いっきりな」
「……ごめんね」
花織はほんの少しだけ笑って顔の前で拝むようにして見せた。サッカー部の面々とは花織は特に気が合うらしい。無口なはずの豪炎寺とも話す機会はここの所増えてきていた。
「それから」
「ちーっす、俺土門飛鳥。一応、DF希望ね!」
冬海の言葉を遮ってひょっこりとその後ろから顔を出したのは、褐色の肌をした長身の男の子だった。花織ははっと息を呑む。
彼の姿には見覚えがあったのだ。土門飛鳥、帝国学園サッカー部員……補欠ではあったが一応一軍の部員であり、花織の記憶にもよく残っている。鬼道さんの言っていたスパイ、というのが彼か……花織は思う。
「土門くん」
「あれ、秋じゃない?」
花織の表情はさらに驚愕に包まれた。秋が土門に親しげに話しかけたからだ。そして土門の方も秋の事を名前で呼んでいることから2人の仲が親密であることが窺える。だが、なぜ?花織は顔を顰めた。秋は帝国学園と交流があったのだろうか。いや、帝国戦でのあの反応を見る限りそれはありえない。では、個人的に親しいのだろうか。花織の考えは深くなるばかりだ、考えても答えは見つからない。
「月島はどう思う?」
急に名を呼ばれ、はっと花織は我に返った。部室中の部員 が花織 の方へと視線を向けていた。花織が話しについてゆけずに困っていれば花織の名を呼んだ張本人、豪炎寺が花織にフォローを入れた。
「野生中について、だ。確か去年の地区予選決勝の会場は帝国学園だっただろう」
どうやら試合を見たり、何か知っている情報は無いか、という事らしい。知らないわけではないが……花織はちらりと土門のことを見る。うかつな発言はしない方がいいだろうか。
「ごめん、よく知らない。……私、その頃はサッカーに興味が無かったから」