第9章 帝国の刺客
「フットボールフロンティアー!!」
今日の部室は大盛り上がりである。花織は部室の端で燥ぐ選手たちの様子を眺めていた。昨夜はフットボールフロンティア地区予選の抽選の日だった。今日、ようやく対戦相手が発表されるのだ。花織はちらりと風丸へと視線を寄せる。
すっかりサッカー部になじんだ彼はやはり皆のように楽しそうだ。今となってはサッカー部の中でも副キャプテンのようなポジションに落ち着いている風丸、そんな彼を花織はどこか嬉しく感じるとともにどこか遠い存在であるようにも感じた。
「で、相手はどこなんだ?」
「相手は……」
風丸の問いに円堂は答えを溜める。部室内に緊張を孕んだ沈黙が走った。それはそうだ、対戦相手が決まる。一回戦から強豪が当たれば辛い戦いになるだろうし、トリッキーなチームが当たったのだとしたら対策を講じねばならなくなる。
「知らない!」
しかし、ぎりぎりまで高められた緊張を打ち破ったのは円堂の想定外の言葉だった。どうしてか堂々と円堂はそう宣言する。間の抜けた空気が部室を満たした。花織も思わず、ため息をつかずにはいられない。さすが円堂、微苦笑を漏らせば同じような表情をしている豪炎寺と目があった。
「野生中ですよ」
部室の戸が開く音がした。それと同時に珍しい声がして花織たちはそちらに視線を集中させる。そこにはサッカー部顧問の冬海が立っていた。珍しいこともあるものだ、花織は思う。サッカー部に臨時マネージャーとして入部し、しばらく経つが、未だ練習で彼の姿を見たことは無かった。
「野生中と言えば去年、地区予選の決勝で帝国と戦っていますね」
春奈が自分の調べたデータを見ながら呟いた。確かにそうだ、昨年花織は帝国の試合を観戦した覚えがある。野生中だという確証はないが、かなり個性的なチームだったことだけは記憶にあった。しかし春奈のデータを見るに都大会レベルでは強豪だといえるだろう。雷門が初めに当たるには不安な学校でもある。
「初戦大差で敗退なんて、みっともない負け方はしないでくださいね」
嫌味のように冬海が部員たちを見た。その言葉に花織は思わず眉を顰め、苛立ちを見せた。冬海は仮にもサッカー部の監督だろう、どうしてそのような無神経な、選手たちの士気を落とすようなことが言えるだろうか