第8章 口付けに想い
「それと……」
花織の背に当てられていた鬼道の右手が花織の髪を撫でる。口から心臓が飛び出るのではないかというほど花織の胸は大きく跳ね、頬は熱を帯びた。
「短い髪もよく似合っている。……前の方が俺好みだったがな」
「そんな、冗談……んっ」
有無を言わさぬというように言葉を塞がれた。何が起こったか分かった時にはすでに時遅く、彼女の髪を触っていたはずの鬼道の右手は花織の後頭部をしっかりと押さえつけ、花織は鬼道の成すがままにされていた。
「んん……」
何度も何度も深く口づけられて花織の目には薄く涙が滲んだ。甘く痺れるような感覚が身体を支配する。酸素の足りなさに花織が小さく口を開けば、鬼道の舌が花織の口腔内へとすべり込み、好き勝手に彼女の中を蹂躙した。
一郎太くんにはこんな風にされたことは無い……。思わず鬼道の服の胸元を握れば、鬼道は今まで重ねていた唇を離す。力がすっかり抜けきった花織がその場にしゃがみ込めば、どちらともない唾液がぷつりと切れた。
「はぁ、はぁ……っ」
鬼道は袖で口元を拭うと花織の頭を撫でる。そして花織の膝元に手帳を傍に置き、その場を立ち去った。花織はただ呆然と唇へと手を当てる。変わらず胸は大きく脈打っていたが、彼女を支配しているのは冷たい罪悪感がほとんどだった。
一郎太くんという人がいながら……。
花織の中には風丸に対しての罪悪感だけだ、先ほどの鬼道との行為には自己嫌悪を起こすほどに不快感や嫌悪感が全くない。それが風丸に対するこれ以上ないほど背徳的な行為だった
「ごめんなさい……。一郎太くん」
花織の口から零れた言葉はあまりに白々しい謝罪でしかなかった。