• テキストサイズ

恋風

第8章 口付けに想い



「話って、なんですか……」

以前と同じように雷門中学の校舎裏へと来た。相変わらずここは人気が無い。花織は多少警戒の表情を浮かべながら鬼道を見据える。しかし彼の表情を見つめればちらりと彼の瞳がゴーグル越しに見え、胸が大きく高鳴った。それが不本意で花織は俯く。

「お前にこれを返そうと思ってな」
「あ……」

鬼道は一冊の手帳を取り出して花織に見せた。花織は思わず声を上げる、それは間違いなく花織が失くしたはずの手帳だった。彼がまた見えたときに返すと言っていた代物である。

「ありがとうございます、わざわざ……」

花織が手帳を受け取ろうと前に歩み出た。しかし鬼道は花織に手帳を渡そうとはしない。彼は口元にフッと笑みを浮かべ、ひらひらと顔の前に翳した手帳を振る。

「お前は練習熱心なんだな。自らでメニューを作り、実行するとは」
「中身見たんですか!?」

見ないとわからないだろう?とさも当たり前のように返事を返す鬼道に花織の表情は凍りついた。あの中には中々恥ずかしいことも書いてあった、主に鬼道に対しての想いや自分の練習課題についてなどだ。

花織はどうしようもなく恥ずかしさが内からこみあげ唇を噛む。この際手帳はもういい、中を改められたのなら彼が持っていても別にどうということは無い。今はとにかく、彼から手帳の中身に対して問われることが怖かった。一刻も早くベンチへと戻ろうと花織は顔をあげる。

「あの……!」

その途端、何やら強い力に花織の腕は引かれた。あまりのことに頭が真っ白になる、はっと我に返ればそこは鬼道の腕の中だった。何か言わなければ、そう思うが予想以上に近い彼の顔に花織は混乱するばかりで口から何も言葉は出てこない。

「あ……」
「……近々、雷門サッカー部にスパイを派遣する。帝国のことを思うなら黙っていてくれるな?」

耳元で吐息と共に囁かれた言葉は花織の頭の中をショートさせるには十分だった。ただ頷くばかりで会話の損得など全く考えることなどできなかった。どうして彼はこんなことをするのだろうか、わけがわからない。ただわかるのは自分が早く解放して貰わねばと思いつつも、この状況を酷く心地よく感じていることだけだった。

/ 333ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp