第8章 口付けに想い
秋が困ったように首を傾げているのを見て、花織は立ち上がる。彼女もスポーツをする身、自分用のテーピングを所持していた。あれをこの中に足せばいいだろう。
「私、自分用に買ったやつがあるから取ってくるね」
「あ、うん。ありがとう」
秋の声に見送られて花織はフィールドの端を回ってサッカー部の部室へと向かう。急がなければ試合を見逃してしまう、試合展開が掴めなくなるのは避けたかった。そう思いながら澪は軽いランニング程度の速度で部室を目指していると目に映った人物に足がとまった。
見覚えのあるドレッドヘアにゴーグル。特徴的なその姿は花織の心を酷くざわつかせた。どうして彼がここにいるのだろうか……口の端が思わず震える。表情には動揺が浮かんだ。花織がしばらく呆然と動けないでいると鬼道は視線を感じたのか花織の方へと視線を向ける。
「お前……」
彼が言葉を漏らすとその隣に立っていた銀髪の少年がちらとこちらを見た。彼もまた見覚えがあった。帝国学園サッカー部参謀、FWの佐久間次郎だ。実質、GKの源田と並んで鬼道の右腕である。佐久間は花織と鬼道を見比べてふっとその表情に笑みを浮かべた。
「へぇ……鬼道のお気に入りか。そういえば前回の試合にも来ていたな」
佐久間の言葉に鬼道も笑う。
「ちょうどいい、月島お前に話がある」
「え……?」
鬼道は花織へと言葉を掛けると後についてくるように言い、歩を進め始めた。