第8章 口付けに想い
試合当日。あいにくの曇り空で今にも雨が降りそうだった。しかし帝国戦の影響か、観客も多く辺りはにぎわっていた。その光景に春奈が感嘆の息を吐き、辺りを見回す。
「しかし、人多いですねぇ~」
「それだけサッカー部に関心を持ってくれている人がいるってことよ」
3人でテキパキとドリンクやタオルを準備していく。忙しい時間を過ごしていればいつの間にかキャプテンが作戦をみんなに話し、各々ストレッチをしていた。花織は一段落したところで彼らの練習に目を向ければ思わず息が漏れる。彼女は、自身はマネージャーよりも選手の方が向いていると改めて実感させられていた。
「来たぞ、円堂!」
風丸の声を聞いて校門の方を振り返れば、尾刈斗中の選手たちがすでにグラウンドまで踏み込んできていた。花織は眉を顰める。少し、いやかなり禍々しげなオーラを漂わせているチームだった。
「噂に違わぬ雰囲気だね……」
花織が思わず呟けば秋も春奈も同調するように頷いた。
「うん……全然否定できないよ」
マネージャー3人で尾刈斗イレブンを見て苦く笑う。何も起こらなければいいのだが、と一抹の不安を感じながら春奈は試合の開始を待つべく、ベンチに腰掛けた。
***
「わぁっ!!花織さん!染岡さんが点を決めましたよ!!」
春奈が歓声を上げて手を叩いた。あれから数分後、雷門優勢で試合が進んでいる。順調だ、このまま進めば理事長の娘だとかいう子の条件をクリアできるだろう。花織も自然とこぶしを握っていた。
「このままなら、勝てるかな?」
「そうね!勝てると思うわ。みんなーー!!がんばって!!」
花織の問いかけに微笑んだ秋は声を張り上げて声援を選手たちへと送る。花織はその横顔を見つめながらこのまま変なことをしてこないと良いのだけど、と胸の中に燻る不安に目を伏せた。相手の監督はなんとなく妙なものを感じさせるため油断はできない。
不安を紛らわせるべく、花織は救急箱を開いて中身を確認する。選手がもし怪我をするような事態になれば大変だ、花織がそう思い中を確認していれば、テーピングの不足に気が付いた。
「あれ、秋ちゃん。テーピングがあんまりないみたい」
「本当?うーん、どこかにまだ仕舞ってあるはずだけど……」