第5章 エールを君に
花織が悩むように口を噤む。しかし、すぐに小さな声で花織が呟いた。
「……無理しないでくれるなら。無理だったら途中で落としてくれてもっ!きゃっ!!」
有無を言わせず風丸が花織をおぶった。かなり不安定な状況で負ぶったので必死に花織は風丸の背中にしがみ付く。風丸は頼もしく花織を持ち上げ体制を整えた。
「落とすわけないだろ?それに……」
一歩一歩進みながら、風丸は話を続ける。
「今日、半田におぶわれてただろ?……正直、その……半田が俺よりも先に花織を助けたことに嫉妬した……本気で悔しいと思ったんだ」
それを聞きながら花織はとても満ち足りた気分になる。嬉しさと愛しさ、いろんなものが花織の心を包んだ。
「ありがとう……一郎太くん」
花織は小さく呟き、風丸の大きな背中に頭を寄せた。青い彼の髪が花織の顔をくすぐる。しかし、心のどこかでこれがあの人の背中だったら……と花織は無意識の中に思い浮かべていた。
***
翌朝、痛む足を庇いながら花織はいつもと変わらず支度をしていた。洗面所へ向かい顔を洗う。タオルで水分を拭い鏡を見れば、自然と唇へと目が行った。気が動転していたため忘れていたが……そう思いながら花織は自分の唇に指を這わせる。
(私、一郎太くんと……)
昨日の出来事を思い出すだけで燃えるように顔が熱くなり、冷たい水で想いきり顔を冷やした。それでも気持ちは高ぶったままで、大きく心臓が高鳴っている。気持ちを落ち着かせようと胸に手をあて大きく深呼吸をしながらちらと時計を一瞥すると、時間が迫ってることに気が付いた。そして花織は顔を火照らせながらも慌てて支度を再開させた。