第5章 エールを君に
「落ち着いたか?」
花織の荷物を整理し、帰る支度をしながら風丸がそう言った。花織は腫れた目を濡らしたハンカチで冷やしている。瞼は未だ熱を持っていたが、冷やす前よりは幾分か楽だった。
「うん……、ありがとう。風丸くん」
花織がそういって微かに微笑めば、風丸は少し照れたように頭を掻きながら顔を逸らす。
「あの……これから、さ、名前で呼び合わないか?ほら!……あの、せっかく、その、こ、恋人同士になったから、さ」
途切れ途切れになりながら言う風丸にどこか可愛さを感じて花織はくすっと口元を抑えて笑う。花織のその仕草に風丸はさらに顔を赤くした。
「うん……一郎太くん」
「ありがとう。……花織」
初めて風丸が花織の名を呼ぶ。真っ赤な風丸の顔に劣らないほど花織の頬も赤く染まる。普段、半田やマックスにも同じように呼ばれているはずなのに不思議と照れくさく、甘い痛みが花織の胸をくすぐる。風丸にそう呼ばれることが無性にうれしかった。
「日も落ちてきたな、帰ろう」
「そうだね」
花織が松葉杖を支えに立ち上がろうとすると、それよりも早く風丸が花織に背を向けて屈み込んだ。え、と思わず花織が声を漏らす。
「乗れよ、花織」
「さ、さすがに無理だよ!階段があるんだし一郎太くんの足に負担が……!」
花織が慌てて顔の前で手を振る。ここは三階だ。上るならまだしも人を抱えて降りるのはかなり負担がかかるだろう。しかも彼は陸上選手、足などもっとも大切にせねばならないはずなのに。
「階段下りるまでだ、もしもがあったら……俺が困る。だから俺に頼ってくれないか?」