第1章 それはまさに
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
花織が軽く頭を下げると風丸は軽く手を振って右側の建物へ入っていった。どうやら向こうは男子の部室らしい。風丸が男子の部室に入るのを見送ってから花織は女子陸上部の扉と向き合った。息を一つはいてドアノブに手を掛け回す。
「失礼します」
ドアを押し開けながら花織が恐る恐る呟くと返事はすぐに帰ってきた。
「どなた?」
花織が顔をあげる。部室の中には5人ほど練習着を来た少女たちがこちらを見ていた。花織は声のした方を見ると釣り目の大人びたショートヘアの少女が怪訝そうに花織のことを見ていた。
「あの、入部希望なんですけど」
「そう。じゃあさっさとこっちに来て。扉はちゃんと閉めてね」
やけに冷たい口調でその人は花織を呼ぶ。花織は他の部員の視線にもなんとなく嫌なものを感じながら彼女のもとへと歩み寄った。
「私がこの部のキャプテン、花岡よ。あんたは?」
「月島花織です」
花織が頭を下げ名を名乗ったが花岡は興味なさそうに花を鳴らす。
「希望競技とかあるの?ウチ、部員少ないから特にこだわりはしないけど」
「あの……、私短距離がやりたいです」
さっと部室の空気が冷えた気がした。嫌な部だなと花織は内心思う。どうして運動部なのにここまで冷め切っているのだろう。
「そう、まあ別にいいけど」
嫌味のように花岡が花織に言う。
「とりあえず、礼儀だけはわきまえて。あんた以外みんな3年なんだから」
花岡はつんとしたまま花織を置いて部室を出て行った。花織が扉の方を向けばいつの間にか他の4人の部員たちもいなくなっていた。花織は小さくため息を零しながら帝国の時から使用している練習着を鞄の中から引っ張り出した。