• テキストサイズ

恋風

第4章 過去の面影




花織は必死に説得した。同じ東京都にあるのだから通えないことは無い、帝国で学びたいことがたくさんある、としかしそれは聞き入れられなかった。帝国学園に通うには新しい家は遠すぎる。彼女の父は花織に言った。

「雷門中学も中々の進学校だ、それにちゃんとした陸上部もあるのだからそのほうがいいだろう。中学生を1人で生活させることなんてできないからな」

そう言われてしまえば花織は反論することなどできずに、しぶしぶ了承することになってしまった。しかし心残りがある、鬼道の事だ。これだけの努力はすべて鬼道に認めてもらうため……。だから最後に想いを伝えたかった。

たとえ報われなくてもいいから自分の気持ちを知ってほしい。花織はそう思った。

***

とうとう転校前日、どうしてかこの日は鬼道に会えなかった。いつもなら朝の登校時や昼休み、彼の方から声を掛けてくれるというのに。花織は仕方なしにサッカーグラウンドへ通じるあの道に行ってみることに決めた。鬼道と初めて出会った通路に。

案の定、鬼道が通りかかった。花織の鼓動が高鳴る。緊張で思わず心臓が飛び出そうだった。

「鬼道さん……っ!」

花織は小さく彼に呼びかけた。花織の声にぴくりと反応して鬼道は辺りを見回す。そして花織の姿に気が付いたのか駆け足で花織の傍まで歩み寄った。

「どうしてここへ来た?今日は総帥がいるから帰れ」

冷たく鬼道が小声で言い放った。あの日から鬼道は花織がいつここに来ようと何も言わなかったはずなのに。むしろ花織を歓迎し、部員たちにも分からないようにサッカー部を見学できる場所に連れて行ってくれていた。

「そんなことは百も承知です。鬼道さん……、少し話を聞いていただけませんか?」
「俺は忙しいんだ、早く行け」

鬼道の言葉にちくりと心が痛む。迷惑だなんて分かっている、それでも言わなければきっと後悔するはずだ。今日しかない、この気持ちを伝えられるのは。

「お時間は取らせません。鬼道さん、私……。鬼道さんの事が好きです」
「……」

鬼道がゴーグル越しに目を丸くしているのが見て取れた。花織は静かに言葉を続ける。

「初めて声をかけてくださった時からずっと、鬼道さんの事が好きでした」
/ 333ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp