第4章 過去の面影
「ごめんなさい、ちょっとサッカー部を見てみたくて。鬼道さんたちの練習をみれば何か陸上の練習に役立てられることがあるのではないかと思いまして」
花織はまるで息を吐くかのように嘘をついた。本当はただグラウンドへの近道をしようとしていただけなんて言えるはずがなかったからだ。鬼道はほう、と意外そうに眉を動かし花織の言葉を聞いた。
「お前の名前は……確か、月島だったな」
「どうして、私の名前を」
唐突に名前を当てられて花織は口元に手を当て驚く。鬼道はにやりと口元を歪めながら当然だと言いたげな口調で言葉を続ける。
「帝国一、足の速い女を俺が覚えてないわけないだろう」
その言葉に思わず心臓が大きく音を立てた。やっと、やっとこの帝国学園で自分を知っている人がいた、花織はそう思った。頭の悪くて消極的な自分を。
「あ、ありがとうございます」
嬉しさから微笑みを見せながら花織が鬼道に頭を下げる。そして未だサッカーボールを手にしていたことを思いだしたのか、慌てて鬼道に差し出した。鬼道は愉快そうに微笑みを零しながらボールを受け取る。
「フッ、気にするな。……お前の練習の参考になるかは分からないが、少し練習を見ていくか?総帥に見つかれば問題だろうが今日は居ないからな」
「は、はいっ!!」
花織は鬼道の申し出に大きな声で返事をする。もう少しこの人の傍にいたかった、自分を知っていてくれたこの人の傍に。これが、花織と鬼道の出会いだった。