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恋風

第19章 恋風の行方


***

チームメイトが揃うと早速役割分担をし、カレーを作り始めた。やはり合宿と言えばカレーだろう。この人数だから、材料を切るのも一苦労だ。花織は目の前に山積みになっていく人参を見てふふ、と笑う。花織は人参を切る係になったのだ。ずっと人参を切るだけの単純作業なのに、楽しく感じられるのは合宿独特のこの浮かれた空気のせいだろうか。

「楽しそうだな、花織」

隣で玉ねぎを切っていた鬼道が玉ねぎから目を離さぬまま、花織に言葉を掛けた。花織はすでに皮の剥かれた人参をボウルから取り出し、まな板の上に置いてちらりと鬼道を見た。

「ふふ、そんなに楽しそうに見えますか?」
「ああ。……いや、違うな」

鬼道は玉ねぎを切る。やはりゴーグルがあるから目は沁みないのだろう。ざくりと小気味のいい音が響かせながら鬼道が玉ねぎを半玉切り終えた。そして同時に鬼道は包丁を置き、花織を見る。

「一昨日から、お前は常に楽しそうだ。……何かいいことでもあったんじゃないか」

一昨日、すなわちマネージャーたちでおにぎりを作った日だ。さすが鬼道、花織の表情に迷いが消えたことを悟っているらしい。

だが今、花織の決心を鬼道に告げるわけにはいかない。鬼道のプレーに悪影響が出てはいけないし、何より他にも影響が出そうだ。花織は鬼道の言葉にくすりと微笑みつつも手元からは目を離さない。そしてそのまま核心ではない言葉を紡いだ。

「いいことなのか……、どうかはわかりませんけれど。私の中でいろいろ変化がありました。私の考え方を変えるような出来事があったのは確かです」
「ほう」

意味深に鬼道が眉を動かした。どうやら花織の口調や表情から何かを感じたようだ。だが花織は人参に視線を向けているため、鬼道の表情の変化にはサッパリ気づいていない。花織は包丁を置いて鬼道に微笑む。以前鬼道に向けていたぎこちない微笑ではない。親しみを感じさせるような笑顔だ。
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