第19章 恋風の行方
花織が明るい調子で、秋に笑い掛ける。選手が焦るのに対して花織は落ち着いている。きっと気持ちの整理が付いているからだし、自分のやるべきことが分かっているからだろう。花織は布団類が準備してある部屋へ向かい、体育館を出る。そろそろ時間ということもあって集まり始める選手たちに、一言ずつ言葉を掛けて行った。
「栗松くん、壁山くんお疲れ様です。体育館で楽にしててね」
「はいッス」
「分かったでヤンス」
円堂以外の選手たちは合宿に対して意欲的で、楽しみにしている様子が伺える。いいことだ、合宿はこうでなければ。花織は枕を準備する為に道を急ぐ。廊下の曲がり角を曲がった瞬間、急いでいた為か誰かにぶつかりそうになってしまった。
「わっ、すまん!」
「ごめんなさいっ」
思わず衝撃に目を瞑ってしまったが、互いに聞こえた声に恐る恐る目を開く。互いからあっ……、と声を上がった。何故なら花織がぶつかりそうになった相手は風丸だったからだ。お互いの間に何となく気まずい沈黙が走る。
耐えかねて風丸がじゃあ、と花織の隣をすり抜けていこうとするが、その前に花織が風丸の顔を見つめた。刹那、どきっと風丸は自分の胸が高鳴るのを感じる。花織が……、風丸が彼女とまだ付き合っていた頃、自分に見せてくれていた微笑を浮かべていたからだ。
たった数週間ぶりだというのに、彼女が自分い微笑んでくれることがとても懐かしい気がする。今すぐに花織の前から消えた方がいいとわかっているのに、風丸は動くことができなかった。