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恋風

第3章 淡く、そして儚く




――帰れ、練習の邪魔だ。――

¨あの人¨言われた言葉が胸をよぎる。あの日どれだけ身を切られる様な想いをしたか。花織は唇を噛む。あの時から怖い……、鬼道への気持ちが消えるのが怖い。

人を好きになるのが怖い、傷つくのも怖い。今は好きだといってくれる風丸の気持ちが変わる時のことを想像するだけで花織の気持ちは不安でいっぱいになる。それにこんな中途半端な気持ちでは風丸の気持ちに失礼だ。花織は静かに彼から目を逸らす。風にさらさらと長い黒髪のポニーテールが揺れた。

「ごめんなさい……」

花織の小さなつぶやきが沈黙に溶けた。風丸は切なげに微笑んで目を伏せた。

「そう、か。すまなかったな」

何もなかったように取り繕うとする風丸の表情は切なげで、酷く傷ついたように笑っている。花織の胸がずきりと痛んだ。だがこれでよかったはずだ。これ以上最良の選択肢など、なかったはずだ。花織はそう自分に言い聞かせ、風丸に背を向ける。

「ごめんね……。今日はもう帰るね」

そう呟いて花織はその場から逃げるように駆けだした。特に目的も決めずに走っていたが、ゆっくりと足が止まる。溢れそうになる涙をどうにか堪えようと顔を覆った。

どうして自分が泣いているのか分からない。苦しいのは自分ではない、こんな自分に好意を抱いてそれを口にしてくれた風丸のはずだろうに。それなのになぜ、涙が溢れてくるのだろうか。

風丸を傷つけた罪悪感だろうか、それとも同情だろうか。……もしもそれが同情なのだとしたら風丸に対してこれ以上の侮辱はないだろう。花織は膝を抱える。

もしそうなら私は……、それを断ち切らねばならないだろう。

1人残された風丸は右手で顔を覆った。振られた、という事実が想像以上に重く胸に沈み込む。自分が惨めだという気持ちが拭えない。初恋だったのに。

自分の気持ちを中途半端に告げてしまってもう後には戻れなかった。言わなければならないような気がしたのだ。それに微かに期待もしていた。……もしかしたら、花織も自分のことを好いてくれているのではないかと。あんなことを言いだしたのだから、少しは望みがあるだろうと思っていた。
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