第1章 それはまさに
花織が席に着く前に冬海はHRを終わらせた。号令を掛けるのに生徒の着席も待たないのか。ありえない、と花織が冬海に不快感を募らせながら机に鞄を置くと先ほど冬海に木野さんと呼ばれたショートヘアの女の子と頭にバンダナを巻いた男の子が花織の席の前に立った。
「なあ、サッカー部に入らないか?」
きらきらと表情を輝かせながらバンダナの男の子が花織に微笑みかける。花織があまりの唐突さに呆気にとられていると木野が慌てて男の子を制する。
「円堂くん、まずは自己紹介しないと!……月島さん初めまして。私は木野秋、よろしくね」
秋がそういって柔らかく微笑むと円堂と呼ばれた男の子がそれに続いた。
「俺は円堂守!雷門中サッカー部のキャプテンだ。なあ月島、サッカー部入んない?」
円堂はサッカー部の入部勧誘がよほど大事らしく、花織に再度問いかけた。花織は円堂の熱意に微苦笑を漏らしながらも首を傾げる。
「サッカー部って男子サッカー部じゃないの?」
「マネージャーでもいいの!マネージャー、私しかいないから」
秋が花織の質問に素早くそう答える。花織にとって二人の勧誘が嬉しくないわけではない。だが花織には帝国の生徒であったときから熱心に練習を積んでいた競技があった。
「ごめんなさい、円堂くん、木野さん。私、陸上部に入ろうと思ってて。……だから」
花織が申し訳なさそうにそう言いかけると残念そうな表情をするでもなく円堂は笑う。そして誰かの名前を叫んだ。
「それじゃあ仕方ないな!おーい、風丸!!」
クラスメイト達が円堂の大声に一斉に振り向く。花織が驚いて秋と円堂を見れば秋は苦く笑みを漏らしていた。花織も秋同様に苦笑していると人の波をかき分け、青髪のポニーテールが円堂の名を呼んだ。
「円堂、いきなり大声出して何かあったのか?」
「この子がさ、陸上部に入りたいんだって!案内してやってくれよ、風丸」
突然呼び出されたことにきょとんとする風丸と状況を理解できずに唖然とする花織を置いて秋と円堂は風のような速さで去って行った。花織と風丸は顔を見合わせる。沈黙が二人の間に流れた。