第1章 それはまさに
冬海のぼそぼそとした声に花織は思わずむっと顔を顰める。第一印象から今の印象まで何もかも最悪だった。挨拶の前にこちらに対する罵倒をくれるとはなんと失礼なのだろう。彼が教職を取っているということの方が花織は信じられないと胸の内で思う。
しかし、転校早々教師相手に問題を起こすわけにもいかず、ゆっくりと言葉を飲み込んだ。
「ええ、私が帝国に入学できたのは偶然でした」
にっこりと作り笑いをしながら花織は冬海を見上げた。冬海は花織の態度をフンと鼻で笑うと花織に背を向けた。
「ついてきなさい」
***
階段を上り、新しい教室へと向かう。帝国の重々しさに比べると清涼感のある廊下や教室だった。2ーCと書かれた札の教室の前で冬海が足を止める。
「少し待ってなさい」
花織の方を見向きもせずに冬海は扉を開けるとさっさと教室の中へ入ってしまった。その態度に花織はまた微かに苛立ちを覚えるがそんなものは一瞬で消える。新しい学校や友達への不安や期待、それが花織の心の全てを満たした。
教室の中からおはようございます、と生徒たちが挨拶をする声が聞こえる。それがまた花織の緊張を一層高めた。それから数秒後冬海の”入ってきなさい”という言葉を聞いて花織は教室のドアを開けた。
教室へ一歩足を踏み入れるとクラスメイトの視線が花織に集中した。花織は覚悟を決め教壇の前へ歩く。そしてクラスメイトの前に立つと静かな声で自己紹介を始めた。
「帝国学園から転校してきました。月島花織です。よろしくお願いします」
そういって花織が頭を下げるとぱらぱらと拍手がわいた。花織は頬を桃色に染めながら髪の毛に手を伸ばす。
「じゃあ月島さんは木野さんの隣の席に座ってください。……以上でHRを終わります」