第18章 君を想う
「……音無に、何がわかるんだ?」
「え……っ」
風丸は春奈を見下ろす。冷たくていつもなら見せるはずのない、みせたことのない感情を堪えたような顔を彼はしていた。春奈は戸惑う。風丸は秋の手からタオルを受け取りながら、言葉をつづけた。
「花織と俺はもう付き合ってるわけじゃない。それに花織に対して俺がどんな反応を取ろうが、俺の勝手じゃないか。別れたのに、いつまでもアイツの気持ちに付き合ってられないよ」
「でも、あんなのって……」
「俺は、今花織と話したくないんだ。構わないでくれ」
そんな、と春奈が言葉を漏らす。あれだけ花織を好いていた風丸の様変わりした言葉に、春奈は酷くショックを受けたようだ。だが、秋は違った。風丸の表情を見てそれが彼の真意ではないことを察する。
――――彼が未練を断ちきれるほど器用なら、こんな悲しい顔で花織ちゃんを傷つけたりしない。
本当に風丸が花織に対する踏ん切りがついたのだとしたら、きっと花織と何事もなく話せると思う。一応は自分の気持ちに決着をつけている鬼道のように。だが、風丸はそれができないでいる。すなわち、彼は未だに花織への想いを振り切れないでいるのだ。
実際、秋の推測は当たっていた。風丸は彼女を傷つけたことに対する痛みを享受しながらもこれでいいのだと自分に言い聞かせていた。……俺がはっきりと花織を嫌いにならなければ、花織はいつまでも俺に気をつかうだろうから。
俺が本当に花織に対する恋愛感情を打ち消せるのはまだまだずっと先だろう。でも俺がこんな態度を取りつづければ花織が俺を嫌いになるのは時間の問題だ。それにこうでもしなければ俺も花織に対する気持ちを切れないから、いつまでも他人に笑い掛ける花織に嫉妬してしまうから。
仮の拒絶を行動に移せば、きっと気持ちもそちらへ傾く時が来るだろう。それが何年先だろうと、彼女の幸せの為に風丸はそうする覚悟があった。それが自分のため、彼女の為にきっとなる。
だから今は、こうするしかない。風丸は自分自身にそう言い聞かせていた。