第17章 優しい嘘
あっけらかんと自分の胸の内を語り始めた一之瀬に、花織は目を剥く。どうしてそんな大切な自分の気持ちを、一之瀬と秋だけが知っていればいい気持ちを、出会ったばかりの自分に話せるのだろうか。花織はただ、一之瀬の話を聞くことしかできない。
――――好きだけがすべてじゃない。
一之瀬の気持ちも花織と同じくらいごちゃごちゃに混ざったものだった。
「でも俺は諦めない。自分が行動をやめてしまわない限り、俺はこの状況がどうにかなると信じてる。現に、サッカーを諦めなかったから今の俺がある。……だから君ももっと素直になりなよ。そんなふうに悲しい顔ばっかりしてても何も変わらない」
にっこり、爽やかな微笑を花織に向けて一之瀬が言う。今まで色々な人に言われてきた言葉と同じだった。だがそのどれよりも彼の言葉は花織に響いたような気がする。どうしてだろう……一之瀬の言葉は誰より説得力があった。花織がそう感じると同時に一之瀬はベンチから立ち上がった。
「じゃあ、俺はそろそろ練習に戻るよ。彼らを見てると座ってなんかいられない」
「あ……、はい」
花織は立ち上がった一之瀬を見上げてこくんと頷く。一之瀬はそのままフィールドに向かおうとしたが、何か思い出したようで再びこちらへもどってきた。
「そういえば君、名前は?」
「え、あの月島……、花織です」
「花織、君の気持ちは君のものだ。だからそんな顔ばかりするなよ」
晴れやかな一之瀬の笑顔に何となく元気づけられたような気がした。