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恋風

第17章 優しい嘘




「ああ、気を遣わなくていいよ。もうわかってることだからさ。目は口ほどに物を言うっていうだろ、わかるもんだよ。さっき君が俺の気持ちに気が付いてくれたみたいに」

やけにあっさりとした返事だ。花織はぽかんとして一之瀬を見る。彼は秋への想いを花織へ知られたことも、秋が円堂を好いていることも何も思っていないようだ。いったい彼が何を考えているのか、花織には分からなかった。

「……君の目と同じだね」

澄んだ瞳で一之瀬が花織の目を見つめる。一之瀬が本気で何を考えているのか、全く分からない。もしかして、花織が彼を見つめていたのに気が付いたのだろうか。花織はふいと一之瀬から視線を逸らした。……一之瀬と花織が誰かに対して同じ想いであるはずなど、ない。

「私は……違うから」

触れられたくない部分に触れられた花織は、唇をかみしめることしかできなかった。一之瀬の想いは秋に対する純粋な恋心だろうが、花織は違う。彼に対する未練や憧憬、罪悪感や迷いが織り交ぜられ、胸の中で泥のように粘っこくどろどろになった感情が渦巻いている。それを一之瀬の想いと並べるのは申し訳ない。恋や愛と呼ぶことすらもはばかられるほど汚いと花織が感じている感情なのに。

「違わないよ。……違うとすればそれを隠そうとしているか、していないかさ」
「え……?」

きょとんとした花織に一之瀬が微笑む。そして静かに空を見上げてぽつりぽつりとつぶやき始めた。

「俺は秋が好きだ。でもただ秋が好きだって感情だけが、俺の中にあるわけじゃない。昔からの仲間意識とか、そういうものもある。でも秋に好かれる円堂が羨ましいとか、昔に少しでも俺の気持ちが秋に伝わってたら違ってたかもとか……、嫉妬や後悔、未練もある」
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