第17章 優しい嘘
鬼道と風丸が花織に対して心配を抱いた、その翌日である。
何と、アメリカから秋と土門の友人がやってきた。彼の名前は一之瀬一哉、爽やかで明るい人ですでにチームになじんで練習に参加している。
彼は幼い頃、交通事故に遭い、二度とサッカーをできないと宣告されたらしい。そのため友人である秋と土門には自分は死んだ者として伝えていたから今まで秋たちは一之瀬の生存を知らなかったのだということだ。
彼はアメリカではフィールドの魔術師呼ばれている、天才MFなのだそうだ。確かにと花織は思う。彼は鬼道とボールを競り合っても全く引けを取らないどころか、ほとんど互角に渡り合っている。
「凄いね、一之瀬くんって」
「うん。小さいころからあんな風に凄かったんだ」
花織が思わず漏らした感嘆の言葉に、秋が嬉しそうに微笑む。きっと昔と変わらない一之瀬のプレーが見られることが嬉しいのだ。花織の言うとおり一之瀬のプレイは凄い、人の目を引くそのボール捌きはプロのような鮮やかさだ。
「皆も楽しそう」
花織がチームメイトを見ながら呟く。一之瀬に触発されてか、皆今日は特にモチベーションが高い。ぼんやりと彼に目を向ける。笑顔でボールを蹴る彼は楽しそうだ。何も考えず、ぼんやりと彼を目で追う。彼が楽しそうに笑うたびにぎゅっと胸を締め付けられるような気持ちに襲われた。
彼の練習をこんなふうに見ているのが好きだ。でも彼と走るのはもっと好きだった。
「秋」
花織が悲しげな表情で彼を見つめていると目の前に人影が掛かった。ふっと花織は顔をあげ、その人物の顔を見る。一之瀬だ。
「隣、いいかな」
彼は真っ直ぐに秋を見ている。その姿に思うところがあった花織は席を立った。
「なんだかお邪魔みたい。……私、向こうで記録付けてくるね」
「え、花織ちゃん?」
急に立ち上がった花織を秋が不思議そうな顔で見上げる。花織の行動の意味を理解したらしい一之瀬は秋から視線を外し、花織のことを見た。
「気にしなくていいよ。君もここに居たら?秋の友達なんだろ」
「いえ、いいんです。……幼馴染だったら積もる話もあるだろうし」