第17章 優しい嘘
「鬼道」
風丸はベンチから腰をあげ、すぐ近くで給水をしているライバルに声を掛けた。鬼道は口元を拭い、何だ、と風丸を見た。
「鬼道、花織の様子可笑しくないか?」
「……どうしてそう思う」
怪訝そうに鬼道が顔を顰めた。普通に考えて、元彼がどうして今まで敵視してきたライバルに、元彼女の相談をするだろうか。周囲も当然2人の会話に聞き耳を立てている。鬼道はすぐにそれを察したようだ。
だが風丸は鬼道にこそ、相談しておきたかった。他の人間には分からないような花織の些細な変化も鬼道なら気が付くだろうと思っていた。むしろ、鬼道にしか気づけないだろう。加えて、最終的に花織を任せる鬼道に話しておくのが最善だと思っていた。
ひそひそと周囲が湧く、鬼道は深くため息をついた。
「場所を変えるぞ、来い」
鬼道がマントを翻し、先を行く。ふたりは少し校舎側に寄った。チームメイト達から距離を置くと、今度は鬼道が風丸に問う。
「お前は、どうして俺に花織の話をする。お前にとって俺は忌むべき相手だろう」
鬼道の言うとおり、風丸と鬼道の仲は口を聞けないほど険悪であってもおかしくないはずだ。風丸の真意を知らない鬼道は風丸の行動が不可解でならなかった。
「俺は花織と別れた。花織はもう俺の傍にはいない、だからお前を嫌っても仕方ないだろ?むしろ、花織がこれ以上傷つかなくてもいいように、お前に頼むのがベストだと思ってる」
「フン、奇特な奴だ。俺にはできないな、俺はあいつを手放そうとは思えん」