第17章 優しい嘘
傷つけたのは風丸だけではない、鬼道のこともだ。あの後彼は花織を慰めようとしてくれたに違いないのに、花織はその手を見向きもせずに振り払ってしまった。彼はずっと花織への想いを温めて、ようやくそれを成就させようとしただけだったのに。中途半端な優しさを積み重ねてしまった。
我儘な自分がどうしようもなく憎い、花織は嗚咽の中に、悲哀を交えた声を漏らした。
「こんなに人に迷惑をかけるなら、誰も好きになりたくなかった……っ」
秋は、黙って花織が気持ちを吐露するのを聞いていた。何故花織が自分に言いたくなかったのかはよくわかった。花織の取った行動は完全に逃避だ。今までは抑圧し続けていたが、とうとう自分の中では堪えきれなくなったのだろう。だが、それならなぜ尚更自分に相談してくれないのだろう。秋はそう思った。
「花織ちゃん、本当にそう思うの?」
秋が花織を見据えて問いかける。
「確かに、花織ちゃんは結果的に風丸くんを傷つけたかもしれないけど、風丸くんを傷つけただけの関係じゃなかったはずでしょ」
「……っ」
花織の中ですべてが巡る。
一緒にトラックを駆け抜けた。帰り道を寄り添って歩いた。ボールを蹴って互いの実力を高め合った。おめでとう、とチームの勝利を喜び合った。手をつないだ。好きだといった。抱きしめた、キスをした。全部、風丸と過ごした幸せな時間だ。
「……風丸のやつ、花織ちゃんのこと無意識だろうけどたまに惚気たりしてたぜ。花織がいつも練習に付き合ってくれる、とか花織の話は面白いから聞いてて飽きないんだ、とかな。本当にごく最近の話しだぜ?」
土門が苦笑する。花織は大きく目を見開いた。土門の言葉にじわりじわりと熱く花織の胸の中で想いがこみ上げる。折角止まりかけていた涙が再びぼろぼろとこぼれ始めた。秋が花織の頭をよしよしと撫でながら、花織の顔を覗き込む。
「花織ちゃん、思い出しても本当に風丸くんを好きにならなきゃよかったって思う?」
「思わ、ない……っ」
絞り出すような声で花織が呟く。秋はふっと表情を和らげて花織をそっと抱き起こそうとする。