第17章 優しい嘘
「花織ちゃん、なあ」
「お願い、土門君にしか頼めないの」
シンとした修練所に悲痛な声が響いた。ぽろっと花織の目から一粒の涙が伝い落ちる。土門は焦った、慌てて花織の肩を掴み、わかったわかったと花織を宥める。
「ろ、ロックは俺が掛ける。でも帰りは暗いし、遅くなったら危ないだろ。俺、待ってるぜ」
「いいよ……、気にしないで。帰り道は大丈夫、懐中電灯も持ってきたし防犯ブザーも携帯も持ってるから。……あまりに遅い様だったら父を呼ぶようにする」
やはり、どうしても自宅まで暗い夜道を歩かねばならない花織は不安を感じているようだ。しかしだからこそ、土門の突っ込む余地もないほどの万全の準備をしてきているようだ。しかし土門は困ったように笑う。
「だからって」
「土門くんの帰りが遅くなるのはダメだよ……。土門くんだって危なくないわけじゃないのに」
「でも、花織ちゃん」
「ひとりにして」
冷たく、悲しげで土門を突き放す言葉だった。だが花織の本心が漏れた瞬間でもあった。花織は自分の失言にハッとして口を押える。だが悲愴の表情で俯いて土門を見なかった。
「ごめん……気を使ってくれるのは嬉しい。でも、今は頭を冷やさなくちゃいけないから」
「あ、ああ……」
すっかり気まずくなってしまって土門は修練場を出る。花織も出口付近まで一緒に付き添い、土門に頭を下げた。
「本当に、ごめんね。……でも、本当に先に帰ってていいから。我儘言ってごめん」
「ああ……、気をつけろよ」