第17章 優しい嘘
また鬼道同様、花織が誘拐されかけたことを秋に明かし、暗くて狭い路地のような場所は花織にとってトラウマになっているようだから付いてやってくれないかとも頼んでいた。
本当にこの二人は彼女に対して過保護である。
花織の頼みとやらを思考しながら土門は、花織の言葉を待つ。花織は俯いて土門に言葉を返した。
「少しここを使いたくて、……外からロックを掛けてほしいの。時間は90分で」
「え、ちょ……、何する気なんだ?」
暗い表情でそれを言い放つの花織に土門が戸惑いの色をみせる。練習後の修練所、二人の他には誰の姿もない。そんな場所で花織が何をする気なのかと少しばかり焦った。
「何もしないよ、ただ少し運動したいだけ」
土門の表情から何を考えているのか悟ったのか、花織が疲れたような微笑みを見せる。しかしそれでも土門は半信半疑なのか、花織に念を押して問いかける。
「ほんとに、か?」
「ええ。……選手の気持ちを知るのも、マネージャーの仕事だから」
ぎゅうと花織がジャージの裾を握る。よくよく見てみれば花織はまだ練習の時に着ているジャージのままだ。彼女が俯いたときに揺れた髪の間から、切なく悲しげな彼女の表情が見え隠れしている。
「で、でも、ここはちょっと無茶じゃないか?それに勝手に使ったら怒られるだろうし」
「大丈夫、円堂君と響木監督にはちゃんと許可を取ったから。……お願い、土門君は外のタイマーをセットしてくれるだけでいい。扉を閉めたらもう帰ってくれて構わないから」
真に迫る表情で土門を花織は見上げる。土門は困ったように頭をがしがしと掻いた。
先に帰っていいと言われても、帰るわけには行かないだろう。時刻は18時30分、今から90分の練習をすると帰るのはどう考えても20時を過ぎる。正門は確かに21時まで開いているから花織個人としては問題ないのかもしれないが、土門としては大問題だ。
いくら夏だといっても真っ暗になる。以前に誘拐され掛けた彼女をそんな遅くに、1人で夜道を歩かせるわけには行かない。第一、花織を1人で帰らせたことが鬼道や風丸に知られたらどんな詰問をされるか考えたくもない。