第17章 優しい嘘
花織は本心ではなさそうだが、微笑を残して土門の前から立ち去って行った。イナビカリ修練場……、どうしてそんな場所に呼び出すのだろうか。土門は不思議に思った。刹那、ポンと背後から肩を叩かれる。土門は思わずう、と顔を顰めてしまった。恐る恐る振り返ると、予想通りそこにいたのは鬼道だった。
「土門」
「……鬼道」
花織とは違い、土門は完全に鬼道との上下関係を取り去りつつあった。その証拠に鬼道にこんな顔をして見せることができるし、呼び捨てで彼の名を呼ぶことができる。
「……花織と何を話していた」
やっぱりか、と土門は思う。自分で聞けばいいと言えたらどんなにいいだろうか。だが、花織が鬼道を避けているのだからそうもいかない。ちらりと土門は背後を振り返る。そこではこちらを伺うように風丸が視線を寄せているのが見てすぐに分かった。ふたりとも花織の動向が気になるのだ。
「別に、大したことじゃねえぜ」
「そうか、ならいい。……土門」
鬼道はマントを翻す。
「花織のことを気にかけてやってくれ。……今アイツは俺とは顔をあわせたくないようだからな」
苦しげに鬼道が笑う。土門は何も言わずただただ頷いた。この二人がもどかしい行動をとっているのにはあまり賛成できないが、それを否定するつもりはない。自分も鬼道の恋路に一時は協力した、花織を悩ませる要因を作ったことには事実だ。そして何より、雷門に来てからできた新たな友人として、花織を助けたいと土門は感じていた。