第17章 優しい嘘
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別れたくないなんて、言えるわけがなかった。
今まであんな表情をさせるほど彼を傷つけていたなんて、思いもしなかった。
「……っ」
花織は陸上部のトラックの脇にあるベンチに腰かけて涙を流していた。彼女の瞳から流れる涙はとめどなく、ベンチや彼女の制服のスカートを濡らしている。手でそれを拭う気力さえわかなかった。
彼女は酷く後悔していた。
こんなふうに彼を傷つけることになるのなら、初めから彼と一緒にいるべきではなかった。自分の気持ちの矛先を彼に向けるべきではなかった。彼を好きになっても、誰にどう責められても彼の申し出を受けるべきではなかった。
「花織ちゃん」
「……」
泣き濡れた瞳で花織が呆然と声を掛けてきた人物を見上げる。
「あき……ちゃん……」
「花織ちゃん、さすがに足、速いね。一回見失っちゃったよ」
そこに立っていたのは秋だった。少し息を切らしてはいるが労わるような微笑を浮かべている。秋は花織の隣に腰を下ろす。
「鬼道くんには先に帰ってもらってるよ。今の花織ちゃんは鬼道くんと一緒にいるべきじゃないと思うから……」
「……」
秋の判断は花織にとってとてもありがたいことだった。今の花織は鬼道とまともに話ができる状態ではない。できることならばしばらく顔を合わせたくなかった。もう絶対に彼の望む答えは出せそうにないからだ。花織は手の甲で涙を拭う。拭っても拭っても涙は絶えなかった。秋はそんな花織の背中をさすりながら小さな声で囁いた。
「花織ちゃん、風丸くんのこと……」
「私……、一郎太くんに……、甘えてばっかりだった……っ!彼が私といることを辛いって、思ってるなんて……、わかろうともしないで……っ。いつも自分のことばっかりで…………っ、大好きなのに何もわかろうとしてなかった……!!」