第17章 優しい嘘
長い沈黙が流れた。花織は風丸から視線を落とす。そして、今一番彼女が言いたくない言葉を口にした。
「わかった……。今まで、迷惑かけてごめんなさい」
震えた小さな声だった。花織は俯いて唇を噛みしめる。目頭が熱くなるのが抑えられなかった。しかし、最後なのだ、もうこれで。彼がそういう以上、この関係は終わりだ。花織はこみ上げる感情を押さえて今にも泣きそうな笑みを浮かべた。
「一郎太くんが傍にいてくれて……、私嬉しかった。一郎太くんには感謝してもしきれない。こんな私を救ってくれた人だから」
「……ああ」
風丸も瞳が潤んでいる。だが、それだけだった。
「それじゃあ俺、帰るよ。……花織は鬼道と一緒に帰れ。一人じゃやっぱり危ないから、な」
「……う、ん」
「じゃあ……」
風丸はそういうと踵を返して校門へ駆け出て行ってしまった。一瞬また静寂がこの場を包む。俯く、残された花織の後姿に今まで黙っていたギャラリーが恐る恐る、彼女に声を掛ける。
「花織……」
初めに声を掛けたのは半田だった。その声に我に返ったのか鬼道が花織の肩に触れる。だが花織はその肩に乗せられた手をさっと払いのけてしまった。
「花織」
「触らないで、ください……」
俯いていた花織が振り返って鬼道を見る。彼女の目からはぽろぽろと大粒の涙が零れ落ち、彼女の頬を静かに濡らしていた。見ている人を胸苦しくさせるような悲しくて切なすぎる表情を花織は浮かべている。
「私のことは、放っておいて……」
人の波を分けて花織は校舎へ向かって駆け出した。鬼道が花織を引き留めようと手を伸ばす。だが、花織は彼の手を逃れて走り去ってしまった。