第17章 優しい嘘
「花織、俺は鬼道の代わりだ。元々そういう約束で付き合い始めたんだ。忘れさせるって約束は守れないが……。せめて、鬼道がいれば俺はもう必要ないだろ?」
「そんなこと思うはずない!……、私は、私は一郎太くんのことを鬼道さんだと思ったことなんて一度もないよ!……以前は一郎太くんと一緒にいる時間、一度も鬼道さんのことを思い浮かべなかったっていうと嘘になるけれど……。でも、私の想いは地区予選決勝の後に宣言した通りだよ、鬼道さんの申し出は」
花織が先日の言葉、もうすでに彼に宣言していた言葉を紡ごうとした時だった。
「やめてくれ!!」
風丸が声を荒げて叫ぶ。怯んで花織は言葉を止めてしまう。風丸がそんなふうに自分に対して厳しい言葉を掛けるのは初めてだった。風丸は一瞬顔を顰めたが、何とか微笑を浮かべる。その茶色い瞳がゆらゆらと揺れているのが周囲に立つ人間にはわかった。
「だったら……このままでいるのか?俺たち。…………俺には無理だ」
風丸が花織を見つめて言葉を紡ぐ。
「俺さ、本当はそれほど寛大な人間じゃないんだ。他の奴らと花織が話していることすら気に食わない。花織にはいつだって俺だけを見てほしいって思ってる。でも、そんな俺の我儘で花織を迷わせて、花織の心を押し込めるくらいなら……俺はお前の傍にはいたくない。これ以上お前のことを好きになったら、俺はきっとお前を束縛するから」
花織は痛切に叫ぶ彼に何も言うことは出来なかった。
「俺もう辛いんだよ、花織の傍にいるのが。答えがもらえるわけでもなく、鬼道への想いを容認しないといけない今の状況が、俺にはもう耐えられない。……だから別れてくれ、俺のためにも」