第17章 優しい嘘
花織は鬼道から視線を逸らす。鬼道が望む答えはひとつだけだ、今の会話からでもはっきりする。だが花織には彼にその答えを与えるつもりはなかったし、それ以外の言葉をはっきりと告げる決心もまだ持っていなかった。
割り切れるものではない、どちらも自分を大切に想っていることを嫌というほどわかっている。だが、花織の想いとは裏腹に、その男はようやく自分の想いに決心をつけていた。彼は小さな声で花織を呼ぶ。
「花織」
静かな声が響く。花織はさらりと髪を揺らして振り返った。刹那、ちりりと胸の焼けつくような痛みが走る。彼――、風丸一郎太はとても凛とした、それでいてどこか切なさを感じさせる表情をしてそこに立っていた。
「一郎太くん……」
「花織。俺、お前に話があるんだ。……今すぐに」
「おい、風丸。今は俺が花織と話をしているんだが」
唐突に花織に話を切り出そうとした風丸を鬼道が顔を顰めて牽制する。風丸はふっと息を吐いて微笑を浮かべた。
「悪い鬼道、先に話をさせてくれ。」
軽く謝罪の言葉を告げて、風丸は花織に向き直る。
「……あのさ、花織」
変な気持ちになった。花織はぎゅっとこぶしを握る、どうしてか吐きそうなほどの妙な不安感に襲われた。それは予感というのだろうか……、花織は風丸の今から話す内容は花織にとって聞いてはならないようなものな気がしてならなかった。
彼の口から零れ落ちたその言葉は、はっきりと花織の元へと届き、耳に残った。