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恋風

第16章 最後の悪あがき




「花織……。俺を見てくれないか、後半」
「……?どうして?いつも見てるよ、一郎太くんのプレー。もちろん、今日の試合だって」

不思議そうに、だが優しく花織が囁いてくれる。当然のようにそう言ってくれる彼女の気持ちが単純に嬉しい。だが、風丸が求めるのはそれではない。

「そういう意味じゃない。……花織はいつも、試合の流れを見てるだろ。だが、後半は俺だけを見ていてほしい。俺がボールを持っていてもいなくても……」

風丸は腕の力を緩め、花織の顔を見る。刹那、花織は言いようのない感覚を覚えた。彼は今にも泣きだしそうなほど苦しげな表情で笑っている。どうしたというのだろう……。だが、花織が風丸を見ることだけで彼にとって満足ならば、それをしない手はないと思った。花織はしっかりと風丸の目を見て頷く。

「わかった。後半はずっと一郎太くんを見てるね、他の誰が点を取っても、必殺技を決めても一郎太くんだけを見てる。……だから、そんな顔しないで」

花織が風丸の頬に手を滑らせる。風丸は目を伏せてああ、と頷いた。

「ありがとう、花織」

単に我儘なだけだ。花織に鬼道を見てほしくないから、俺だけを見てくれと告げた。卑劣だということはわかっている、それでも花織の恋人として、この彼女を束縛する特権を行使するのは最後のつもりだ。満足だろう、もう何もかも。風丸は花織の手の温かさをただひたすらに感じていた。後半開始時刻が迫っているが、妙な満足感に風丸は包まれていた。微かに、微笑みを浮かべる。

これで、心置きなく俺は花織を解放できる。
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