第16章 最後の悪あがき
彼女の中では答えは決まっているつもりだ。だが何を言えばいいのかわからないのだ。あれほど好きだ好きだと言っておいて、今までの彼の好意に背くのはとてもひどいことであるような気がする。
ふっと風丸が顔を顰める。真意を知らない風丸の中で、一つの推測が脳裏をよぎった。
――――もしかして、俺に気を使っているのか。
そう思うと、彼女にそう思わせている自分がどうしても情けなくなった。だが同時に、自分を想ってくれる花織が愛しくて、手放したくなくて堪らなくなった。
「花織、来てくれ」
風丸は花織の手を了承も得ずに掴む。そして花織の手を引いて行く先も告げずに歩き始めた。ちらちらと皆の、また鬼道の視線を感じたが、それでも構わなかった。ボトルとタオルをベンチに置いて通路への階段を下る。時間はもうあまりないだろう。それでも花織は何も言わずに風丸についてきている。
人気のない暗い通路の途中で、漸く彼は足を止めた。
「一郎太くん?」
花織が風丸を呼ぶ。風丸は何も言わずに花織の身体を強く抱きしめた。ふわりと汗の匂いがする。突然のことに花織は大きく目を見開いた。
「……花織」
微かに震えた声で風丸が花織を呼ぶ。試合は残り45分、自分の決めたリミットまでもう少しだ。今だけは、今だけはと言い聞かせて風丸はますます花織を抱きしめる。
「どう、したの……?」
彼の真意が掴めず、戸惑いながらも花織が風丸の背中に手を回す。そして静かに彼の背中を撫でた。