第16章 最後の悪あがき
迎えた全国大会二回戦、千羽山中との試合である……が、雷門イレブンは未だにフィールドに整列しておらず、ベンチに佇んでいた。
「とにかく、全員そろってます!だから早く整列しないと」
風丸が響木監督に焦りの言葉をかける。花織もそんな風丸の隣で不安げに眉を寄せていた。
試合開始時刻が刻々と迫っている。というより正規の開始時刻はもう既に過ぎていて、大会の規約に則って特別に猶予を貰っているだけなのだ。それももう終わってしまう。しかしそれでも監督はもう一人来るから待てと言い張り、選手たちを整列させようとはしなかった。
「後三分以内に整列しなければ大会規約に則り、棄権と見なします」
時計を見ながら告げられた審判のコールにチーム内に焦りが広がった。口々に監督に抗議の声を掛けるが、監督は口を噤んで動じない。いよいよ時が差し迫った、そのときだった。
「来たか」
低く響木が呟く。その一言にチーム内はシン、と静まりかえった。スパイクのポイントと、地面の擦れる音が響き、花織の目の端で見慣れない青布が翻った。そして花織がその人物を確認したと同時に、チーム内から喫驚の声が湧く。
「「「えええええ!!!」」」
ドレッドヘアにゴーグル、そして青いマントを羽織った鬼道有人が、雷門中サッカー部のユニフォームを身に纏って立っていた。
皆が驚きの声を上げた。いや、花織と風丸は驚きに声も出なかった。
「どうして……?」
隣に立つ花織の唇から、困惑の言葉を漏れたのが風丸には分かった。実況で鬼道がここに居る理由についてアナウンスが入る。結論から言うと鬼道は雷門に転校し、サッカー部に入部したということらしい。そしてそれを知っていたのは響木監督と……全く動じていない豪炎寺だろうか。
戸惑い花織は、風丸に視線を向ける。風丸はまっすぐに鬼道を見据えていた。
――――本当に、容赦のない奴だな。
今日は風丸にとってある意味特別な試合だった。ラストゲーム。伊賀島戦で決めた、彼女を解放するための選択。覚悟はできている。だからこそ今日風丸にできることは、試合に貢献し、たとえ鬼道がいようとも花織の前で活躍する。そして最終的に勝つことだけだ。
風丸は拳を握る。鬼道は花織、風丸双方に一度だけ視線を寄せたが、何も言わなかった。