第16章 最後の悪あがき
鬼道と花織は同じように惹かれあっていたのだ。ちゃんと言葉さえ伝えていれば、何も拗れることはなかったはずなのに。
「だから、雷門との練習試合の時は喜びと同時に言いようのない嫉妬心が俺の中にあった。何故なら、お前は他の男の名を呼んで飛び出してきたからだ。俺の仕打ちに胸を痛め、俺の知らない男の為に涙を流していた。……だが、まだ俺にもチャンスはあると思った。お前が俺を見つめる目が帝国にいたころと全く変わっていなかったからだ」
そこまで話してしまうと鬼道はふ、と息をつく。そして花織に悲しげに笑い掛けた。やはりそれは自分に対する憐憫のようなものが滲んでいて、いつもの威風堂々とした彼らしくなく、酷く切ないように見えてしまう。
「そうやって総帥に表立って謀反をすることもできず、自分の気持ちを制することもできない。生半可な気持ちだった俺が残した結果がこれだ。すべてだったサッカーでさえ勝利することが適わなかった。フィールドに立つ前に試合が終わっていたんだ」
悲痛な声で鬼道が言う。花織は何も言うことはできなかった。
「絶望と敗北感で押しつぶされそうになった時、俺はお前に会いたいと思った。虫のいい話だが、お前に会えば確証も無いくせに救われるような気がしたからだ。少なくとも、お前は俺を受け入れてくれるのではないかと思った」
彼の赤い瞳が潤む。花織は胸が痞えるような気持ちになった。
花織は鬼道にはっきりと言わなければいけないことがあった。このままでいるのが何より心苦しいのだ、だからこそはっきりと自分の気持ちを伝えなければならなかった。
だが、鬼道はこれほどまでに花織に想いを寄せられていると知れば、自分が知るよりも前から思いを寄せていてくれたのだと知れば花織は口を噤むしかできなかった。自分の気持ちを言葉にすることすらはばかられる。
「俺はお前を振り回してばかりだな。……すまない」
こんなに悲しそう笑う人に何も言えるわけがない。