第16章 最後の悪あがき
錯覚などではない、花織の心は鬼道の言葉に打ち震えていた。あの頃は鬼道の傍にいることが、何よりの楽しみだった。挨拶をして、他愛のない話をして……望んでいたのは自分だけだと思っていた。
「一年も終わりかけて、俺はお前に想いを伝えようと思った。何度も、そうしようとした。……だが中々言い出せなかった。お前に拒絶されると思うと、今の関係が崩れるかもしれないと思うと怖くなったからだ」
鬼道が一度目を伏せ、そうしてから花織を見た。赤い瞳は先ほどの激動から打って変わって穏やかで、むしろ落ち着き悲しげに見えた。
「そんな時、俺は総帥に呼び出された」
「……」
「お前に対する俺の想いは総帥に筒抜けだった。それは至極当然のことだっただろう。俺はお前を独占したいが為に、散々お前への好意を露わにしてきたからな。……そして命じられた、二度とお前と近づくなと。子どもの玩具のような恋心は勝利の妨げになるからだと総帥は言った」
ここまで言って鬼道は自嘲するように笑みを浮かべる。
「あの時の俺は総帥に忠実だった。それに春奈を引き取れねばならないという兄の使命感もあった。そんな俺の決断をお前は知っているだろう。俺は俺の気持ちを切り捨てることを決めた。…………だが、間が悪いとはこのことを言うんだろうな。お前が俺に想いを伝えに来たのは、その翌日だった。その日は珍しく総帥がフィールドまで降りて練習を見ていた。……今思えば、あれも総帥の計画だったんだろう。俺が完全にお前への未練を断ち切れるように」
総帥はきっと花織が転校するということを知っていたのだろう。だからあえて、どちらにとっても悲惨な終わり方するように嗾けたのかもしれない。と花織は思った。ただ、すべて憶測に過ぎないが。
「お前の事情など全く知らなかった俺は、総帥にお前と密会していることを知られるのを恐れて心にもない言葉をお前に投げかけた。……そして翌日から完全にお前は姿を消してしまった。転校したと聞いたのはそれから数週間も経った後だった。……自分のせいだとわかっていても治まりはしなかった。無理にお前を拒絶しても益々お前が恋しくなるだけだった」